私は狭い宿舎の一室に閉じ込められ、毎日、鏡でドス黒く腫れ上がった唇を眺めては、激しく動揺した。 当時、ヘルペスという病名さえ初耳で、どんな病気かさえもわからなかった。
もはや元通りになるなんて、不可能に思えてくるのだ。 「あ〜、いや、コホン。
あのなぁ、お父さんはオマエの唇が薄いんは、欠点や思うとったんや。 だから、腫れたらちょっと唇が厚うなって、まあ、なんちゅうか、セクシーになるんちやうかと……あ〜、思うんやけどなあ……」なるわけ、ないだろ。
数カ月後、ヘルペスはきれいに治り、ウソのように元どおりの薄い唇に戻ったのだった。 「あ〜あ」落ち込む私とは対照的に、彼は私の醜い顔を直視しても、あいかわらず楽観視していた。
「治る、治る。 そんなにヒドくないよ」元とたいして変わらない、ということだろうか。

しかし、一向に治る兆しは見られず、私はとうとう休学し、実家で療養することになった。 「そんなヘンな病気にかかるなんて、よほど自堕落な生活を送っているにちがいない」家族もヘルペスなんて、聞いたことがなかったのだ。
そして容赦なく、私を責めた。 私はやさしい彼のいる、つくばに戻りたくなった。
遅く帰宅した父が、私の部屋へ様子をうかがいにやって来た。 私の恐ろしい顔を見た瞬間、春になり、私は宿舎を出て、友人のRチャンとマンションで同居を始めた。
マンションの目の前に、野球場があった。 彼の所属する野球部が、そこで朝に夕に練習をする。
それゆえに、私はそのマンションを選んだ……というわけではない。 そんな可愛げなど、私には著しく欠けていた。
ある時、その野球場で、彼のチームが試合をするという。

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